PAPSメルマガ vol.67 弁護士はAVプロダクションの弁護をしてはいけないか
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PAPSメルマガ vol.67 弁護士はAVプロダクションの弁護をしてはいけないか


 結論から言えば、いけないことは全くありません。何人も平等に法的な保護のもとにおかれるべきであって、AVプロダクションの行った民事訴訟だから弁護してはいけないということはありません。AVプロダクションにも弁護されるべき当然の権利があります。この基本を前提として、ぱっぷすを支援している方(以下、支援者といいます)が行ったAVプロダクションの弁護を引き受けた弁護士に対する懲戒請求の経緯をお伝えします。

 2015年9月に東京地裁で下されたAV問題に関する判決は、AV問題をAV出演被害として社会に広く認知されるようになった画期的な裁判でした。ある女性が、もうAVに出演したくないと言ったら、プロダクションは、それは契約違反だ、だから、損害賠償金を支払うか出演するかと迫りました。女性は両方とも拒否しました。プロダクションは、女性に2460万円の損害賠償を求めて民事裁判を起こしました。この裁判は女性の勝訴になりました。(詳しくは、「賃金と社会保障 2016年1649・1650合併号参照。ぱっぷすでコピー(出版社の了解のもと)を頒布しています)

 それまで多くの女性たちは、嫌なら裁判に訴えるぞと脅されて、いやいやながら体で“損害賠償”してきていたのでしょう。そして今でもその状況は存在しているのだろうと思います。

 そこで支援者の方は一市民として、成人に達したかどうかの若い女性に対して法外な賠償金を請求するAVプロダクションの民事訴訟の弁護をすることに対し、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することが使命である弁護士の倫理規定に反していないかという疑問をいだきました。

 弁護士職務基本規定には、「弁護士は、依頼の目的又は手段方法において不当な事件を受任してはならない」という条項があります。本件の中心になるのは、プロダクション側は圧倒的な力を用いて高額の損害賠償を女性に請求することによって、もともとの目的であったAV出演を強要しようとしているのではないかという疑問です。まず当該弁護士が所属している東京第二弁護士会に懲戒を求めることを考えました。

 平たく言えば、弁護士は弁護依頼が来れば何でも引き受けていいのかという疑問です。

 プロダクション側についた弁護士は“人権派”としても活動していた弁護士でした。このことにも強い怒りを覚えました。

 弁護士法では、誰でもおかしなことをしていると考えられる弁護士について懲戒請求することができます(弁護士法58条)。 そこで、支援者の方は自ら書面を書き、東京第二弁護士会綱紀委員会に懲戒請求を行いましたが、「懲戒しない」という決定でした。その理由として、弁護士として正当な弁護活動の範囲内であったという内容でした。支援者の方はこの結果を受け入れることができず、今度は東京第二弁護士会の上位機関である日弁連綱紀委員会に異議申し立てを行ったところ、懲戒しないという決定を取り消し、東京第二弁護士会に差し戻すという決定がでました。その後、東京第二弁護士会の懲戒委員会で審議が行われましたが「懲戒しない」という決定でした。支援者の方はあきらめずに、最後のチャンスとして、日弁連懲戒委員会に異議の申し立てを行いました。その結果がこの3月(2019年)に出されましたが、東京第二弁護士会の決定と同様に「懲戒しない」という決定がでたとのことでした。

 日弁連の懲戒委員会のメンバーは全部で14名です。14名全員一致の結論ではなかった点を強調しておきます。却下の結論に付記して以下の文面が添えられていました。

「本件契約に基づき、9回出演しなければならないことを前提とした逸失利益を含む高額の損害賠償請求をした点は問題があり、戒告の処分をすべきとの意見が相当数あったことを付記する」。

 裁判制度という権力をもちいて、これまで多くのAV出演を拒否する女性の自由を委縮させる力が働き、一方で性的搾取をする側とその弁護士はその力を意図的に利用し、恩恵を受けてきたわけですから、そこに加担した弁護士は倫理的及び道義的な責任があると思います。日弁連において、満場一致で却下が決められたわけではない、という事実がせめてもの救いです。

 何よりも、2015年から4年間にわたり粘り強く異議申し立てをして下さった支援者の方に対し最大の敬意と感謝の気持ちをお伝えします。

※参考資料

<弁護士法>

(懲戒の請求、調査及び審査) 第五十八条何人も、弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するとき は、その事由の説明を添えて、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを 懲戒することを求めることができる。 2弁護士会は、所属の弁護士又は弁護士法人について、懲戒の事由があると思料するとき又は前項の請求があつたときは、綱紀委員会にその調査をさせなければならない。 3弁護士会は、綱紀委員会が前項の調査により弁護士又は弁護士法人を懲戒することを相当と認めたときは、懲戒委員会にその審査を求めなければならない。

(懲戒を受けた者の審査請求に対する裁決) 第五十九条日本弁護士連合会は、第五十六条の規定により弁護士会がした懲戒についての行政不服審査法による審査請求に対して裁決をする場合には、懲戒委員会の 議決に基づかなければならない。

(日本弁護士連合会の懲戒) 第六十条日本弁護士連合会は、第五十六条第一項に規定する事案について自らその弁護士又は弁護士法人を懲戒することを適当と認めるときは、懲戒委員会の議決に基づき、これを懲戒することができる。

<弁護士懲戒制度>

https://goo.gl/HuCFDm

日本弁護士連合会のホームページより


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