製作被害

 「制作被害」とは、ポルノの制作過程で生み出される被害です。そこには大きく言って2つのパターンがあります。1つは、商業ポルノ(AVと呼ばれているもの)の制作過程で生じる被害です。もう1つは、必ずしも商業ポルノとして制作されているわけではなくても、盗撮や、性暴力の一環として、あるいは売春を強制するために写真やビデオが撮られることで生じる被害がそれに当たります。

 商業ポルノの制作過程で生じる被害

 アダルトビデオ(AV)に出演するのは本人の自由なんだから、演技なんだから、そこに人権侵害なんてあるわけがない、と思われています。

 

 しかし、バッキー・ビジュアルプランニングという当時有名なAV制作会社が出演女性にひどい虐待を加え、重大な傷害を与え、監督や会長などの主要な関係者に最高で懲役18年の実刑判決が下された事件が実際に起きました(判決は2007年)。これは商業ポルノでの制作被害が裁かれためずらしい事例ですが、実際に被害が生じていてもほとんどは被害届も出されず、裁判にはなりません。

 

 同社のシリーズでは、一人の女優に数十人の「男優」が襲いかかって次々とレイプする、漏斗を使って女優に大量のアルコールを流し込む、いやがる女性の顔を水の中に何度もつけて窒息させる、などの暴行を加えました。これらの出演女性は撮影後、ひどいPTSDの症状に悩まされ、水を使った暴行の被害者の場合、お風呂にさえ入れなくなりました。

 

 このような暴力AVが日本で広がるきっかけとなったのは、1990年代に出されたバクシーシ山下監督による『女犯(にょはん)』というAVシリーズです。その中で出演女優は、何をされるか事前にきちんと教えられないまま、屈強な男たちによって殴られ、けられ、髪の毛を持って引きずり回され、吐しゃ物を吐きかけられ、レイプされています。

 

 このようなビデオはとくにひどいものですが、さまざまな虐待や暴力が出演女性に加えられていることは、一般に流通しているAVの映像からもうかがえます。合意のあるなしに関わらず、出演女性の人格、身体、安全を脅かし傷つける行為は明白な人権侵害です。

 

 殴るけ蹴るといった直接の暴力でなくても、たとえば避妊具なしの挿入行為やフェラチオ、アナルセックス、「中出し」などは、女性のリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関わる健康)を著しく脅かす行為ですし、いわゆる露出モノやスカトロといったジャンルのポルノも女性の性的人格権を著しく侵害し、その安全と健康を脅かします。

 また膣内を指で乱暴にかき回したり、道具を性器やアナルに挿入したり、いわゆる「潮吹き」をさせたりする行為も、女性の身体に著しい負担を加え、粘膜を傷つけたり、時には重大な傷害を与えることになります。

 

 普通のヌードや絡みを中心としたものであっても、契約の過程で騙しや脅しがあったり、撮影現場で同意していない行為をさせられたりすることは頻繁に起こっています。

 

 たとえば、2007年に「AVオブ・ザ・イヤー」にも選出された穂花さんは、その自伝『籠』(主婦の友社、2010年)の中で、彼女のAVデビューがだましと違約金による恫喝であったことを告白しています。彼女は水着の撮影であるとの約束で、あるタレント事務所と契約を交わしたのに、その撮影現場に行ってみるとそれはヌード撮影でした。スタッフや著名なカメラマンも勢ぞろいした状況下で断れるはずもなく、意に反してヌード写真が撮られました。その次に来た仕事はアダルトビデオでした。彼女は引き受けたつもりはないといって拒否すると、違約金として600万円も請求されました。もちろんこれはまったくの不当請求ですが、20歳そこそこの若さと無知につけ込んで撮影は結局強行されました。

 私たちの会にも、だまされたり、多額の違約金をちらつかされて撮影を強要されたりする事例の相談が多数寄せられています。中には、意に反するものとして出演を拒否した女性に対して、PAPSが介入し、以降の出演をしなくても済みました。しかし、プロダクション側が裁判を起こして莫大な損害賠償請求をしてきましたが、裁判ではプロダクション側が全面的に敗訴しています(2015年)。

 

 その判決の中では、「アダルトビデオへの出演は、プロダクションが指定する男性と性行為等をすることを内容とするものであるから、出演者の意に反してこれに従事させることが許されない性質のもの」であり、違約金などを口実に撮影に従事させることはできないのであって、そのような契約は解除することができる、との明快な判断が下されています。(詳しくはこちらを見てください→http://bylines.news.yahoo.co.jp/itokazuko/20151001-00049989/

 

 また、アダルトビデオの出演者(あるいは売買春の従事者)としては、家出をしてきた無一文の少女、親がいない少女、親やその他の家族からの暴力や虐待・ネグレクトを受けた少女、学校などでいじめを受けて自己肯定感をもてない女性、知的障がいを持った少女や女性などがとくにターゲットにされています。自己決定によって出演していると言われていますが、それは一個の神話です。

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 盗撮被害と強制撮影の被害

 被害者本人が知らないうちに、自分の着替えや入浴、性行為や排泄行為などが撮影されて、「盗撮もの」の商業ポルノとして販売されるという被害もあります。アマゾンなどのサイトで検索すればわかるように、この種のポルノは膨大な数が売買されています。

 

 「盗撮もの」ポルノの中には、「やらせ」もありますが、その多くは実際の盗撮行為によって制作されています。逮捕されたある加害者は「マニアが見るとやらせだとわかるので、危険を冒しても実際に盗撮しなければならなった」と警察に供述しています。

 

 売買春の現場でも、性風俗店側がその様子を盗撮するということがしばしば行なわれています。元セックスワーカーのAさんは、自分が勤めていた店でそうした盗撮行為が行なわれていたことを確認しています。

 

 以上は盗撮被害ですが、それと並んで強制撮影の被害も多数存在します。商業ポルノの現場における強制撮影についてはすでに紹介しましたが、それ以外でも、たとえば、レイプ加害者が、後で楽しむため、被害者を脅して口封じするため、被害者にさらなる精神的打撃を与えるために、自分のレイプ行為や被害者の裸体を画像や映像に撮影する場合があります。被害者はレイプ被害に加えて、それを撮影されるというさらなる被害を受けることになります。

 

 たとえば、2010年に京都で起きた連続レイプ事件に対する京都地裁の判決が2012年10月に下されましたが、その裁判で明らかにされたところによると、犯人は犯行の様子を携帯のカメラに撮影し、「これをどこかのサイトにばらまくこともできる」と脅迫して口封じしようとしていました(『産経新聞』2012年10月13日)。この事件にも示されているように、携帯カメラの普及とインターネットの普及は、この種のポルノ被害を著しく増大させ、ますます深刻な事態をもたらしています。

 

 最近では、甘言を弄したり脅したりして、子どもに自分の裸を写した写真を携帯で送らせるという事件も頻繁に起きています。たとえば2012年9月に逮捕された事件では、容疑者の大阪府警柏原署員は、高校2年生の女子生徒に無理やり自分の裸の写真を送るよう命令した上、ホテルでの性行為を動画に撮り、その後も繰り返し裸の写真を送るよう命令し、断られると「この前撮った動画を売る」などと脅していたとされています(『読売新聞』2012年9月12日)。

 

 また、たとえ恋人同士や夫婦であっても、相手の意に反して無理やり裸体や性行為を撮影することも、強制撮影という性暴力です。

 

 このような強制撮影は強制売春や人身売買においても行なわれています。被害者を売春に従事させる脅迫の手段として、あるいは逃げ出せないようにする手段として、強制的に裸体や性行為を撮影するのです。また、そうやって撮影されたものが後にポルノとして流通させられることもあります。