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売春防止法逮捕時の実名・顔写真を伴う報道に対して

  • 執筆者の写真: Admin
    Admin
  • 7月25日
  • 読了時間: 5分

2025年7月25日 特定非営利活動法人 ぱっぷす


はじめに

2025年7月24日に報道された、東京都新宿区・大久保公園周辺における売春防止法違反容疑での4名の若年女性たちの逮捕に関し、複数の報道機関が実名および逮捕時の映像を報道しました。ぱっぷすでは、性的搾取をめぐる深刻な構造的背景と人道的な観点から、今回の報道発表に対して強い懸念を表明します。


実名・顔出し報道・印象操作の問題点

一度インターネット上に公開された実名や顔写真は、報道元のサイトだけでなく、まとめサイト、SNS、掲示板、スクリーンショット、アーカイブなどを通じて半永久的に拡散されます。本人の意思に関係なく、情報がネット空間に刻み込まれ続ける現象は「デジタルタトゥー」と呼ばれ、現代における深刻な人権侵害のひとつです。


彼女たちが釈放されたとしても、インターネットやSNSで検索すれば「逮捕」「売春」「外国人客」などの言葉とともに情報が表示され、本人が仕事に就く、住居を借りる、信頼関係を築くといった再出発の機会が失われます。


特に20代前半の若年層にとって、これは「更生」どころか「人生そのものを諦めさせられる」に等しい問題です。報道が「公益性」や「知る権利」を理由に実名報道を正当化する場合もありますが、その影響は時に“社会的制裁”という名の私刑となり、事実上の“終身刑”をもたらします。


報道の中には、逮捕された若年女性のうち1人が「これまでに性の売買で1億円を得た」と供述しているとの記載がありました。しかしこれは捜査段階の発言にすぎず、証拠による裏付けは一切示されていません。


特に、逮捕という極度のストレス環境下では、人は混乱し、虚勢や自暴自棄の感情から誇張した発言をしてしまうことがあります。特に、これまでに「どれだけ稼いだか」や「どれだけ注目を浴びたか」で自己価値を測られてきた環境にいた彼女たちにとっては、そのような発言は自己防衛的になる場合があります。


また、長期にわたる貧困や孤立、信頼できる大人や支援者の不在によって、「正直に話しても誰も助けてくれない」という深い諦めが形成されているケースもあります。

こうした背景を無視し、供述の一部だけをセンセーショナルに報じることは、本人を「巨額の利益を得た加害者」として一方的に断罪し、ホストクラブ商法や性の売買などの性的搾取にともなう貧困や孤立といった構造的な問題を覆い隠してしまいます。


さらに、報道発表では「11件の外国人からの通報があった」とされていますが、これが逮捕された彼女たちと直接関係していたかどうかは立証されておらず、具体的な関連性は明示されていません。これは、正確な立証や検証が不十分なまま、彼女たちの人物像や行為を“悪質”に見せかける印象操作であり、被疑者の社会的評価や人権を不当に損なう結果を招きかねません。


ぱっぷすの立場と今後の被害救済について

ぱっぷすは、性的搾取の被害にあわれた方の声に耳を傾け、日々相談対応を行っています。特に、歌舞伎町・大久保公園周辺で「顔を晒されてしまった」と苦しむ女性からの相談も実際に寄せられており、ぱっぷすでは、インターネット上に拡散された顔写真や個人情報、動画の削除要請を被害者に代わって行う支援にも取り組んでいます。


しかし、いったん拡散された情報の完全な削除には限界があり、本人の希望とは裏腹に情報が長期にわたって残り続けることで、生きづらさが慢性的に続くケースも少なくありません。これは、自死の問題とも直結する問題です。このような被害を防ぐためには、そもそも報道段階で実名・顔出しを控えることが、最も効果的な被害防止策です。


報道機関への要請

報道には社会的役割がありますが、同時に個人の人生に与える影響も極めて大きいものです。ぱっぷすでは、以下の点について報道機関に要請します。


  1. 既存コンテンツの修正対応

    今回すでに配信されている報道動画のうち、被疑者の顔が明瞭に映っているものについては、速やかにモザイク処理を施してください。また、YouTubeやニュースサイトのサムネイル画像に顔が使用されている場合も、削除または差し替えをお願いします。


  1. 被害防止に向けた積極的な対応

    二次利用された動画についても、報道機関としての責任を持ち、削除要請や通報などを実施してください。墨塗・モザイク処理版への差し替え後は、拡散防止の姿勢を明確に示してください。


  2. 実名・顔出し報道の見直し

    売春防止法などにおける逮捕の段階での実名・顔写真の報道は、原則として控えてください。特に若年女性など社会的に弱い立場にある人々については、より一層慎重な判断が求められます。


  1. 供述内容の扱いにおける慎重な対応

    捜査段階での供述には、心理的混乱や虚勢、自暴自棄などが影響する可能性があります。裏付けのない情報を断定的に伝えることは避けてください。


  1. デジタルタトゥーへの配慮

    一度公開された情報がネット上に残り続けることで、人生の再建が著しく困難になることを十分に認識し、配信内容を厳選してください。



さいごに

報道の自由は極めて重要な権利ですが、それは同時に「他者を傷つけない責任」と表裏一体のものであるべきです。ぱっぷすでは今後も、デジタル性暴力や性的搾取にあわれたかたの声を社会に届け、報道の在り方が一人ひとりの尊厳を守るものとなるよう、現場から訴え続けます。どうか、報道機関の皆さまにおかれましては、今一度、人権を尊重した報道倫理について真摯な見直しをお願いいたします。


以上


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