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売春防止法見直しの取りまとめに向けた意見書を法務省検討会に提出しました

  • 13 時間前
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2026年7月27日、ぱっぷすは法務省「売買春に係る規制の在り方検討会」の座長・委員各位に対し、次の2点の書面を提出しました。



①は、同検討会のヒアリングに協力してきた立場から、議論が取りまとめの段階に入った現時点で、改めて現場の実態にもとづく意見をお伝えするものです。目的規定を「人の尊厳」へ改めること、買う側の勧誘等を条例ではなく法律で処罰すること、売る側(現行第5条)を非犯罪化すること、脆弱性に乗じた買春を処罰することなど、6点を要望しています。

②は、公表議事録に現れた実証研究の引用や、ヒアリングで示された性風俗産業の規模の推計値について、原典と照合した結果をご報告し、事務局および委員各位による確認をお願いするものです。特定の委員のご発言を批判する趣旨のものではありません。

以下、提出した2点の全文を掲載します(上の①②をクリックすると、それぞれの本文に移動します)。


2026年(令和8年)7月27日

法務省「売買春に係る規制の在り方検討会」

座長・委員 各位

特定非営利活動法人ぱっぷす

理事長 金尻カズナ


売春防止法見直しの取りまとめに向けた意見書

特定非営利活動法人ぱっぷす(当団体)は、性的搾取・デジタル性暴力被害の相談支援に取り組む民間支援団体として、本検討会のヒアリングにも協力させていただいた立場から、取りまとめに向けた議論が行われている本時点において、下記のとおり意見を申し述べます。委員各位の真摯なご議論に敬意を表するとともに、取りまとめへの反映を強く要望いたします。


意見の要旨

1 目的規定(第1条)について、「性道徳」「社会の善良の風俗」を基軸とする現行の構成を改め、「人の尊厳」の保持を中核に据える方向での見直しを取りまとめに明記すること。

2 買春目的の勧誘・申込み・条件交渉等(買う側の勧誘等)について、条例への委任ではなく、法律により処罰規定を新設すること。SNS等を利用した誘引を確実に捕捉できる構成とすること。

3 売春をした者およびその勧誘(現行第5条)について、処罰の対象から除外(非犯罪化)もしくは大幅に縮減すること。少なくとも、売春をした者を処罰しない旨の類型的な規定を設け、刑事手続を入口としない支援接続の仕組みを制度化すること。

4 買春者の相手となった女性の心身の障害、経済的困窮(ホストクラブ等の売掛金その他の債務による拘束を含む)、グルーミング等の脆弱性に乗じた買春について、処罰規定を新設すること。あわせて第7条(困惑等による売春をさせた者)の相手方となった買春者の処罰規定を設けること。

5 法定刑について、罰金額の大幅な引上げ、法人重課の導入、第7条の法定刑引上げ、および周旋により利益を得た場合の加重類型(第6条)の新設を行うこと。

6 保護・支援について、女性支援法(困難女性支援法)では「保護更生」から人権尊重へ変わったことを前提に、検挙を入口としない支援導線(警察等から支援機関への接続の制度化、アウトリーチ・一時保護・中長期の住居就労支援、トラウマ支援などの心理的支援への財政措置)を取りまとめに明記すること。


当団体の立場と本意見書の視点

当団体は、性的搾取・性売買の被害相談、デジタル性暴力(性的な画像・動画等の拡散被害等)への対応、および新宿・歌舞伎町を中心とする街頭アウトリーチ活動(前年度149日以上)に取り組んでまいりました。当団体が路上で出会う女性たちの多くは10代から20代です。虐待、いじめ、貧困、性暴力被害など複合的な困難を背景として性売買に身を置き、買春者からの暴力・撮影・支払拒否等の被害に日常的にさらされています。加えて、彼女たち自身が第5条違反として逮捕・勾留の対象となり得るため、どれほどの被害を受けても、それを警察に訴えることができない立場に置かれています。


当団体の出発点は、次の一点にあります。すなわち、「今生まれる子どもたちが、性の売買を選択しなくてもよい権利を保障すること」です。これは現に性売買の渦中にいる人の選択を否定するものではなく、誰もが性を売らずに生きられる社会を保障すべきであるという要請であり、女性支援法およびAV出演被害防止・救済法(いずれも令和4年)から、令和5年の刑法性犯罪の改正、昨年の風営法改正へと続く近年の立法動向――性をめぐる法制度の基軸を『風俗』から『人の尊厳と支援』へ――の延長線上にあるものと考えます。本意見書は、この観点から、検討会の論点整理の項目に沿って意見を述べるものです。


第1 目的規定(第1条)の見直しについて

第7回会議において、第1条が「性道徳」「社会の善良の風俗」と「人の尊厳」を並列する現行の構成を改め、人の尊厳を傷つけることを明らかにする方向での変更を検討すべきとの意見が示されたと承知しています。当団体はこれを強く支持し、取りまとめへの明記を求めます。

女性支援法は売春防止法から保護更生の枠組みを切り離して『支援』へと転換し、AV出演被害防止・救済法は出演被害の防止と救済を目的に明記しました。令和5年の刑法改正は性犯罪の保護法益が個人の性的自由・人格的利益であることを明確にし、昨年の風営法改正も、悪質ホストクラブ等による搾取からの保護を正面に据えています。売春防止法のみが「風俗」を基軸に残ることは、法体系全体との不整合にとどまりません。この70年余りの運用において、「風俗を乱す者」という位置づけは、売る側の女性に対する処罰の正当化と社会的スティグマの根拠として機能し、第1に述べたとおり、被害の申告と支援への接近を妨げてきました。目的規定の見直しは、個別論点の結論を方向づける土台として、取りまとめの冒頭に位置づけられるべきと考えます。


第2 買う側の勧誘等に対する処罰規定の新設

買う側の勧誘等について何らかの規制が必要であるとの認識が委員間で概ね共有されたことは、近年の社会状況や法改正の積み重ねを踏まえた結果であると考えます。この認識を具体的な制度に反映するため、買春目的の勧誘、申込み、条件交渉等については、条例への委任ではなく、法律により処罰規定を新設すべきです。また、SNS等を利用した誘引も確実に捕捉できる構成とする必要があります。

法律による全国一律の規制が必要である第一の理由は、買春の勧誘・誘引が、すでに特定の地域の路上だけで生じる問題ではないことです。当団体が街頭アウトリーチや相談支援を通じて把握する事案の相当部分は、SNSやインターネット等を介して行われています。検討会においても、現行第5条第3号をSNS利用の事案に適用した実績があるとの説明が事務局からなされました。インターネット上の誘引は地域を越えて行われるため、地域ごとの条例に委ねることは適切ではありません。

第二に、条例に委ねれば、規制の有無や内容に地域差が生じ、規制のない地域や規制の弱い地域への移動を招くおそれがあります。淫行処罰規定の地域差によって、「規制のない県に行けばよい」との情報が流布した経験があることは、会議でも指摘されたとおりです。買春目的の勧誘についても、地域によって処罰の有無が異なれば、同様の規制逃れを生じさせかねません。

第三に、法律による規制は、実際に問題が生じている地域からの要望にも沿うものです。第6回会議のヒアリングにおいて、新宿区は、買春目的の勧誘行為に罰則がないことが問題の一因となっている可能性を指摘し、罰則を設けることを含む対策を要望しています。地域の実情を理由に条例へ委ねることは、新宿区が国に求めている対応と一致しません。

構成要件については、第5条の行為類型を、買う側の行為に対応させることを基本とすべきです。具体的には、道路その他公共の場所又は公衆の目に触れる方法で、人に売春をするよう勧誘し、買春を申し込み、又は条件を交渉する行為に加え、広告、SNS上の公開投稿その他これに類する方法により、買春の相手方を募集し、又は誘引する行為を処罰対象とすべきです。また、相手方が売春の勧誘、募集又は申出をしていないにもかかわらず、SNS等の個別通信を用いて、一方的に買春を持ちかけ、又は対価その他の条件を提示する行為についても、性的なハラスメントとして規制対象に含める必要があります。ただし、この処罰の論理を売る側にも及ぼし、売る側の処罰範囲を広げることは、第4で述べる趣旨から厳に避けなければなりません。

なお、買春目的の外形的な識別が実務上困難であるとの指摘、とりわけ客待ちに相当する徘徊・佇立型の識別可能性については、実務上の課題として理解できます。しかし、この点は、処罰対象を、公然の勧誘・申込み・条件交渉が確認できる現行犯型の行為や、SNS等を利用した誘引行為に絞り込む際の論点にはなっても、立法そのものを断念する理由にはなりません。当団体が路上で目にしてきたのは、国内の買春者のみならず、外国人買春者までもが、翻訳アプリを使いながら公然と女性に声を掛け、金額や行為の内容を尋ねる光景です。こうした買春目的が外形上明白な勧誘・申込み・条件交渉こそ、法律による規制の中核に据えるべき行為です。


第3 売る側の勧誘(現行第5条)の非犯罪化

当団体は、売春をした者およびその勧誘(現行第5条)について、処罰の対象から除外(非犯罪化)し、又はその処罰範囲を大幅に縮減することを求めます。少なくとも、売春をした者はその売春および勧誘等につき罰しない旨の類型的な規定を設けるべきです。あわせて、刑事手続を入口としない支援接続の仕組みを制度化することを、明記するよう求めます。

検討会において複数の委員から、売春をする者は性的搾取を受ける立場にあり、保護と支援の対象として位置づけるべきであるとの指摘がありました。この位置づけは、女性支援法の制定によって、既に立法上も採用されたものと解されます。他方、売春防止法第5条は、売春をする者による勧誘等を処罰の対象としており、同じ立場にある者を、一方の法律では支援の対象として、他方の法律では処罰の対象として位置づける状態が生じています。この不整合は、いずれかの法律の改正によって解消されるべきものであり、女性支援法の理念を前提とする限り、見直されるべきは売春防止法第5条の側です。

刑罰規定の存置には、保護法益の存在、手段としての必要性、および法益侵害との均衡が求められます。この点、売春防止法は第3条において売春およびその相手方となる行為を禁止していますが、これに罰則を置いていません。処罰対象は公然性を伴う勧誘等に限定されており、その保護法益は社会的な生活環境に関わるものと解されます。個人的法益の侵害を伴わない行為について、当該行為の主体であると同時に搾取の客体でもある者を処罰することは、必要性および均衡性のいずれの点からも説明が困難です。生活環境上の支障の除去という目的は、需要側の規制その他の手段によっても達成可能であり、売る側の処罰はこの目的との関係で過剰な手段にあたります。

存置の積極的な根拠として検討会で挙げられたのは、処罰規定が刑事司法の介入を福祉につなぐ契機として機能しているという点でした。しかし、第一に、その効果を示す資料が提出されていません。検挙後に支援機関へ接続された件数について、警察庁の説明では数値が示されず、当団体が新宿・歌舞伎町内で活動する中でも、起訴猶予等により釈放された者が同一地域の路上に戻る事例が反復して確認されています。第二に、この規定は逆方向の効果を伴います。売る側が処罰対象であることは、被害申告のハードルを高め、需要側の暴力を不可視化します。

当団体の実施する街頭アウトリーチにおいて、外国人観光客に殴打された10代後半の女性、指を負傷させられた10代後半の女性など、買春の場面における暴力に多く接してきました。また、20代前半の女性からは、暴行を受けて交番に赴いたものの、自らの行為が処罰対象であることを理由に申告を断念した旨の話を聞いています。申告に至らない被害は、その性質上いかなる統計にも計上されません。統計上に現れないことをもって被害の不存在を推認することはできないというべきです。第三に、女性支援法は本人の意思を尊重した支援を予定しており、刑事手続の介在を支援の前提とする必然性は失われています。したがって、契機論は存置の根拠として維持し得ないものと考えます。

非犯罪化の立法形式について、会議では、責任能力の減退や期待可能性の減少といった責任阻却の構成により処罰を回避する可能性が示されました。もっとも、この構成では処罰の可否が事後的な個別判断に委ねられ、行為時点における予測可能性が確保されないため、前記の申告抑止効果を除去することができません。(a)第5条の主体から売春をした者を除外し、又は適用範囲を大幅に縮減した上で、需要側の対向行為を処罰の中心に据える構成、または(b)「売春をした者は、その売春および勧誘等については罰しない」との類型的な規定によるべきです。いずれも複数の法域が採用しており、立法例に不足はありません。なお、検討会で言及された日本弁護士連合会の2013年意見書は、補導処分(第3章)の削除と第5条の削除の双方を求めていたものであり、前者は女性支援法の制定により既に実現しています。同意見書は、売る側の非犯罪化を求める見解として位置づけられるべきものです。

支援への接続については、第7回会議において、補導処分型の強制的処遇によるべきでないという点に異論が示されませんでした。非犯罪化を実効化するため、①警察・出入国在留管理当局等が売春に関わった者と接触した場合における、本人の同意に基づく支援機関への通知および同行支援の制度化、②アウトリーチ、一時保護、中長期の住居・就労・心理的支援に対する継続的な財政措置、の2点を取りまとめに明記することを求めます。


第4 脆弱性に乗じた買春への処罰規定の新設

単純売買春そのものの犯罪化は困難との認識が委員の間で概ね共有される一方で、相手方の脆弱性――心身の障害、経済的困窮、グルーミング等――に乗じた買春については、処罰規定の新設を求める意見が示されました(第4回会議議事録)。当団体はこれを本検討会の最も重要な到達点になり得るものと受け止めており、取りまとめへの明記を強く求めます。性的同意は対価によって買うことができず、対価を払う者と払われる者の関係は対等ではありません。脆弱性に乗じた買春の処罰は、この認識を法制度上明確にする第一歩です。

類型の設計にあたっては、上記の三類型(心身の障害に乗じる場合、経済的困窮に乗じる場合、グルーミング行為による場合)を基本とした上で、経済的困窮の類型に、ホストクラブ等の売掛金その他の債務による拘束を利用する場合を含むことを明示するか、これを独立の類型として規定することを求めます。売掛金回収のために売春をせざるを得ない状況は、当団体の相談現場で最も深刻な類型の一つだからです。

警察庁から紹介された検挙事例の犯行動機の統計(ホストクラブ等の遊興費が多く生活困窮は3%)について一言します。検挙時の供述に基づく動機の分類は、脆弱性の不存在を意味しません。「ホストの遊興費」と分類される事案の実態は、債務による経済的拘束であり、警察庁自身が悪質ホストクラブ対策として取り組んでいる搾取構造そのものです。動機統計をもって「困窮による売春は例外的」と結論づけることは、実態を見誤らせるものです。

また、脆弱性利用型の処罰は現行法体系からの飛躍ではありません。第一に、現行第7条は、困惑等に乗じて売春をさせた者を処罰する一方、それと知りながら相手方となった買春者には何の制裁もありません。女性を追い込んだ業者は罰せられるのに、その状況から利益を受ける買春者だけが罰せられないという抜け穴を塞ぐこと(第7条の相手方処罰)は、会議でもあり得る構成として指摘されたとおり、現行法の枠組みの延長で十分に可能です。第二に、児童買春処罰法は既に「対価の供与+年齢」による類型的処罰を四半世紀にわたり運用しており、脆弱性という規範的要件への拡張は質的な飛躍ではありません。当団体のヒアリングで申し上げたとおり、18歳の誕生日を境に、同じ状況にある人が「被害者」から「検挙対象」に転じる現行法の断絶に問題があります。


第5 売春の定義

当団体は、売春の定義に、少なくとも肛門性交を含めることを求めます。肛門性交は刑法上すでに膣性交と同列の「性交等」として扱われており(平成29年改正以降)、法務省の「性犯罪に関する刑事法検討会」取りまとめ報告書(令和3年・29頁)にも、両者への挿入を同等の法益侵害とする心理学的知見が紹介されています。「せめて肛門性交は定義に含められないか」との会議での意見に、当団体は賛同します。

仮に本取りまとめにおいて定義の改正が見送られる場合には、肛門性交を定義に含めることの検討を継続する旨を、取りまとめ本文または将来の法案の附帯決議・見直し条項に明記することを求めます。あわせて、定義のいかんにかかわらず、次の点の明記を求めます。すなわち、性交類似行為を対価により提供させる営業の内部において、性交の要求を断れない、性交の撮影や動画の流出、違約金・罰金の徴収、債務拘束等の被害相談が当団体に多数寄せられている実態があり、「風営法の下で合法的に行われている」との評価がこれらの搾取の放置につながってはならないこと、第6条・第7条・職業安定法第63条第2号等の既存規定の運用強化を求めます。


第6 法定刑

罰金刑の上限引上げの必要性に異論がなかったことは、現行の法定刑が、行為の悪質性や得られる利益に見合う水準へ見直す必要があるとの認識が共有されたものと受け止めています。 年間数千万円の売上げが報じられる営業に対して罰金10万円ないし30万円という現行水準は、罰金を負担してもなお多額の利益が残り、 結果として搾取を「割に合う」ものとしています。昨年の風営法改正(個人1,000万円・法人3億円)との均衡を踏まえた大幅な引上げと、両罰規定における法人重課の導入を求めます。

あわせて、法定刑の再序列化は搾取性を基軸に行われるべきです。具体的には、性犯罪・強制労働に近接する重い行為類型でありながら法定刑が低い第7条の引上げ、および周旋により利益を得た場合の加重類型(第6条)の新設に賛同します。搾取の利益に着目した処罰の強化は、目的規定を人の尊厳に据え直すことと一体の課題です。


結語

制定から70年を経た売春防止法の見直しは、この国が性売買という暴力と搾取にどう向き合うかを定める歴史的な機会です。現行法の不均衡の是正が、売る側への処罰の維持・強化としてではなく、需要側の責任の明確化と、売る側の非犯罪化・支援への転換として結実することを求めます。

私たちは、今生まれる子どもたちに、性の売買を選択しなくてもよい普遍的な権利を保障したいと願っています。委員各位の取りまとめが、その第一歩となることを確信し、本意見書を提出いたします。

以上


検討会において引用された実証研究・数値に関する事実関係の確認のお願い


以下は、特定の委員のご発言を批判する趣旨のものでは全くありません。取りまとめが正確な事実の基礎の上に行われることを願い、公表議事録に現れた引用について、原典との照合の結果をご報告し、事務局および委員各位による確認をお願いするものです。


1 カナダ・バンクーバーの実証研究(第4回会議で引用)

議事録では「アレクサンドラ・アルジェントさんという方が書かれた実証研究であり、これはカナダのバンクーバーで約900人のトランスジェンダーの女性のセックスワーカーを対象とした実証調査です」と紹介されています。原典(PLOS ONE誌、2020年4月公刊、DOI: 10.1371/journal.pone.0225783)と照合した結果は次のとおりです。第一に、筆頭著者はエレナ・アルジェント(Elena Argento)氏です。第二に、調査対象は約900人のシスジェンダーおよびトランスジェンダーの女性であり、トランスジェンダー女性のみではありません。第三に、同研究が測定したのは保健サービスや当事者団体主導サービスへのアクセスの変化であり、売買春や被害の増減そのものではありません。後者のアクセス低下は団体側の提供体制や活動方針の変化でも生じ得る上、同研究は当事者団体と一体で運営されており、評価主体と評価対象サービスの独立性を欠きます。第四に、調査地バンクーバーの市警察は2013年から、「同意ある成人間のセックスワークは取締りの優先事項としない」とする執行指針を採用していました。このような地域固有の執行環境下における施行前後の比較には、PCEPA (Protection of Communities and Exploited Persons Act)又は買春者処罰法制一般の効果を測定する上で大きな限界があります。第五に、参加基準は「14歳以上」であり、カナダ刑法上、児童買春の被害者を「セックスワーカー」として集計し得る設計である一方、児童の割合は開示されていません。第六に、著者ら自身が、自己報告バイアスや交絡統制の困難を研究の限界として明記しています。


2 サハラ以南アフリカ10か国の研究(第4回会議で引用)

議事録では「アンドレア・ライオンズという方の書かれた2020年の文献」と紹介されていますが、原典(Nature Communications誌、2020年2月18日公刊、11巻773号)の筆頭著者はキャリー・E・ライオンズ(Carrie E. Lyons)氏です。同研究は10か国・7,259人の女性を対象とする横断研究であり、著者ら自身が、横断データであるため因果関係は評価できないこと、および分析対象国に非犯罪化の法制度を有する国は一つも含まれていないことを明記しています。したがって同研究は、買春者処罰の悪影響についても、非犯罪化の便益についても、因果的な結論を導くものではありません


3 性風俗産業の規模等に関する推計値(ヒアリングで提示)

ヒアリング配布資料では、令和6年末における性風俗関連特殊営業の届出数33,890件を基礎に、大手ポータルサイト「シティヘブンネット」に掲載された5,785店及び女性374,076人という数値を全届出数とし、従事する女性を約215万人と推計する算式が示されています。また、性風俗関連産業の年間市場規模として、2兆円から5兆円との推計が提示されています。


約215万人との推計については、算式自体は示されているものの、その妥当性には重大な検証上の問題があります。警察庁の届出数33,890件は、店舗型性風俗特殊営業6,651件、無店舗型性風俗特殊営業22,761件、映像送信型性風俗特殊営業4,333件及び電話異性紹介営業145件の合計です。店舗型にはモーテル・ラブホテル等4,563件やアダルトショップ等95件が含まれ、無店舗型にはアダルトビデオ等通信販売1,415件が含まれています。


このように、業態及び対象範囲の異なる届出全体に対し、特定のポータルサイトに掲載された女性プロフィール数を一律に外挿することについては、両者の母集団が対応していることを確認できません。また、配布資料からは、掲載された女性数について、同一人物の複数店舗への重複掲載、現在の在籍状況、退店者、休業者又は長期間更新されていないプロフィール等をどのように処理したのかを確認することができません。したがって、掲載プロフィール数を、現に従事している女性の実人数とみなすことができるかについても検証できません。


さらに、約215万人を33,890件で単純に除すと、届出1件当たり約63人に相当します。しかし、33,890件は全てが女性の在籍する店舗又は営業所ではなく、ラブホテル、映像送信型営業、通信販売等も含む届出の合計です。このため、これを「1店舗当たり」の従事者数として評価することも適切ではありません。


年間2兆円から5兆円との市場規模についても、少なくとも公表された配布資料上、その算定式、対象とした業態、基準年、重複の処理方法及び出典を確認することができません。

また、同資料に記載された「壊滅的」「合法風俗産業が全面崩壊」といった評価は、規制強化一般についての客観的な影響評価ではなく、売春の定義を性交類似行為まで拡張した場合について、資料作成者が示した将来予測です。これらを検証済みの事実又は規制影響の推計として扱うことはできません。


4 若林翔氏提出資料の取扱いについて

以上の問題は、個別の数値の誤差や、一部の表現の不正確さにとどまるものではありません。同資料(グラディアトル法律事務所 若林翔氏作成)には、異なる業態を区別せず、全届出数に拡大して推計、算定根拠及び出典を確認できない市場規模の提示、限られた事例や関係者の見解から因果関係を導く記述、並びに将来予測と実証的事実との混同が見られます。


例えば、AV出演被害防止・救済法について、同資料は「地下化が発生(国内実証)」と断定しています。しかし、施行前後の比較、対象範囲、件数、「地下化」の定義、比較対象及び他の要因を区別する分析等は示されていません。法施行後に一定の業界動向が報告されたことと、同法によってその動向が生じたこととは区別される必要があり、提示された資料から因果関係が実証されたと評価することはできません。


また、AV出演被害防止・救済法は、出演契約に関する説明及び書面交付、撮影・公表までの期間、出演者の意思に反する性行為の拒絶、契約の取消し・解除、映像の公表差止め等を定めた、被害の防止及び救済のための法律です。同法による被害防止・救済上の効果を検討することなく、一部の事業者又は業界側の動向のみをもって「地下化」が実証されたと評価することは、一面的であると言わざるを得ません。


さらに、「合法風俗産業が全面崩壊」「全女性が失業」といった記載についても、その根拠となる調査、経済モデル又は推計過程は示されておらず、実証的な予測ではなく、一定の制度改正を仮定した場合における資料作成者の見解にとどまります。約215万人及び年間2兆円から5兆円との数値についても、前述のとおり、従事者の実人数又は市場規模を示すものとしての検証可能性は確保されていません。


もとより、性風俗産業に関わる実務家又は業界関係者の立場や懸念を聴取し、検討会における意見の一つとして参照すること自体を否定するものではありません。しかし、意見や懸念を示す資料であることと、客観的な事実、因果関係又は規制による影響を実証する資料であることとは、明確に区別される必要があります。


したがって、若林翔氏の提出資料については、業界関係者の立場及び懸念を示す意見資料として参照するにとどめ、取りまとめにおける事実認定、立法事実又は規制影響評価の基礎資料としては採用しないよう求めます。

以上

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