約一ヶ月後の2017年3月22日、取材者からPAPS世話人宛にメールで原稿が送られてきました。「基本的に修正は、ご発言の箇所のみでお願いいたします」という但し書きがありました。
原稿を確認すると、取材依頼書の趣旨から逸脱していました。PAPS世話人の発言部分のみならず、発言以外の文においても、事実と異なる内容や誤読させるような内容が含まれていました。PAPS世話人は騙されたと気づきました。それでも、一度取材を受けたことから、双方が納得できる記事の掲載に向け、取材者と原稿のやりとりをするのが誠意ある態度だと考えました。
2017年3月23日、PAPS世話人から取材者に送ったメールには、「私の発言のみの修正としても、文脈的にも内容的にも大小とりまぜて修正の必要があると思いました」と書きました。さらに、「原文に沿って、修正を試みるには、私の意を十分に反映していない箇所がある」「数日のうちに修正をというご要望でしたら、応えかねますので、私の発言自体を取り下げてくださって結構です」とも付け加えました。しかし、取材者からは「原稿確認は固有名詞、事実関係の誤りの有無をチェックしていただき、誤りがあれば修正していただくものでありますので、発言内容や主義主張の修正などについては、お受けすることはいたしておりません」という返事がきました。
2017年3月26日、PAPS世話人はやむを得ず、誤字や数値の修正と、事実と異なる内容のうち、HRNの報告書を引用しつつ、報告書発表後の相談は増えているが、「その増加分のほとんどはAV出演強要ではない」については取り消し線を入れて削除し返送しました。この削除については取材者からは特に反論はなかったので、修正箇所が反映され、掲載されるものと考えておりました。
2017年4月19日、取材者から“諸般の事情”により日刊SPA!の掲載は取りやめになったこと、他の媒体への掲載を考えていることなどの内容のメールがきました。続いて、2017年4月25日20時、取材者から、アゴラというサイトで掲載する旨のメールが届きました。PAPS世話人はこのメールをアゴラ掲載後に確認しました。
メールが送付されてから10時間後の2017年4月26日6時に「AV出演強要問題の不都合な真実(前編)」というタイトルで記事が掲載されました。誤字や数値の修正については反映されていましたが、取り消し線で指摘した箇所については、一切反映されずに公表されました。タイトルについても当初の取材依頼書の趣旨とは全く異なる内容になっていました。
翌日および翌々日には、中編、後編が公表されました。中編、後編ではPAPS世話人の発言が部分的に引用されていますが、日刊SPA!掲載予定の原稿とは異なる原稿です。PAPS世話人はアゴラに掲載された原稿の確認をしていません。PAPSは、日刊SPA!取材には応じましたが、アゴラの取材に応じたという認識は一切ありません。
2017年4月28日、PAPS世話人は取材者に対して、本抗議文で指摘している内容の抗議をメールで行い、訂正文をアゴラに書いていただくよう要請しました。しかし、取材者は「相談の増加分のほとんどは、出演強要についてのものではない」「もっとも多い相談は過去の出演作品を削除してほしいというもの。刑法に抵触するようなもの(=言葉本来の意味での出演強要)は210件のうちの一割であるので、客観的な表現をとった」と回答しました。
しかし、協働相談支援事業に協力している弁護士によると、これまで寄せられた被害相談のうち、意に反する撮影や販売などの「AV出演強要」であれば、刑法等に抵触している可能性があります。これまでは、AV出演強要を「自己責任」とする社会の風潮がある中、事件化することが難しく、「なかったこと」にされてきたのが現状です。
2016年の警察庁通達や2017年4月のAV被害防止月間もあり、少しずつではありますがAV出演強要は社会問題化されてきました。これまで寄せられた相談の中で、刑事事件化を望む相談のうち公訴時効内の相談につきましては、所轄署と連携しながら対応しています。現在進行中のものも複数あるため、刑事事件化に関する数字の言及については差し控えさせていただきたいと存じます。
上記の観点より、本件記事は、公正な取材によるものではなくPAPS世話人を欺き、取材が行われたと考えます。このような経緯から、当会は、本書面掲載をもって、取材者に改めて抗議を行い、アゴラへは、取材者の取材過程をどの程度把握した上で掲載に踏み切ったのか、説明を求めます。
繰り返しになりますが、報道機関およびメディア関係者の方、アダルトビデオ問題に関心を寄せる団体、または個人におかれましては、アゴラの記事内で掲載されているPAPSならびに協働相談支援事業に関する引用や転載を控えていただきますよう、重ねてお願いいたします。
本抗議文のPDFはこちらからダウンロードください。
2017年2月14日、取材者からPAPS代表メール宛に「週刊SPAより取材のお願い」というメールが届きました。内容は、週刊SPA!のWEB媒体である日刊SPA!(扶桑社)において、「AV強要問題から始まった男女共同参画局での議論など」について企画しているので、今週か来週あたりに取材させてほしいとのことでした。メールには取材依頼書が添付されていました(添付資料を参照願います)。
同様の取材依頼は他団体にも送付されており、事前にAV出演強要被害を否定的に扱う取材者の取材には応じないほうがよいとの忠告が複数寄せられていました。しかし、これまでPAPSには、知人女性が被害にあわれたという男性からの相談が少なからず寄せられていました。直接当事者に会って話を聞くと、大変深刻な内容である場合があり、男性にも私たちの相談窓口の存在を知ってもらうことが大事だと考え、これまでも主な読者層が男性であるいわゆる男性雑誌の取材にも応じてきたことから、PAPS世話人は日刊SPA!の取材を受けました。
[取材と掲載の経過について]
私たち「ポルノ被害と性暴力を考える会(People Against Pornography and Sexual Violence: PAPS)」はポルノグラフィを通じて起きるさまざまな人権侵害や性暴力の問題に取り組み、主としてAV出演被害などのポルノ被害を受けた方の相談支援を行っている団体です。
【4月26日〜28日連載のアゴラの記事に関する抗議文ならびに皆さまへのお願い】
PAPSに寄せられるAV被害相談の多くは、意に反した出演および意に反した販売という「AV出演強要」であると認識しております。「AV出演強要」を意図的に矮小化させようとした、取材者の行為をPAPSとして許容することはできないため、以下に詳しく「取材と掲載の経過」を記します。
報道機関及びメディア関係者の方、アダルトビデオ問題に関心を寄せる団体、個人におかれましては、アゴラの記事内で掲載されているPAPSならびに協働相談支援事業に関する引用や転載を控えていただきますよう、お願いいたします。
2017年4月26日~28日まで、前編、中編、後編と3回にわたり、「アゴラ」というサイトにアダルトビデオ問題に関する記事が掲載されました。記事内には当会世話人の宮本節子(以下、PAPS世話人といいます)の取材をもとに書かれた部分があります。しかし、中山美里氏(以下、取材者といいます)の事前の説明とは異なる形で掲載されましたので、取材者の取材姿勢について、当会ホームページ上で抗議を行うものとし、アゴラへは取材者の取材過程をどの程度把握した上で掲載に踏み切ったのか、説明を求めます。
当該記事のURL
後編 http://agora-web.jp/archives/2025775.html 中編 http://agora-web.jp/archives/2025763.html 前編 http://agora-web.jp/archives/2025747.html
取材は、2017年2月17日13時より、渋谷区にあるオープンスペースにおいて取材者とPAPS世話人の計2名で行われました。取材者は「録音を取らせてください」と言い、PAPS世話人は了承しました。取材者の質問は、依頼書の質問項目に則った形ではなかったものの、取材自体は友好的な雰囲気の中、一時間ほど、雑談を交えつつ行われました。取材者からは、主体的に出演している人の権利についての質問はじめ、「PAPSとIPPAおよびAVANが座談会を持てるとよいですね」というPAPSへの提案もありました。
また、これまでPAPS世話人が受けたメディアのインタビューにおいては、事前に取材者から取材原稿の扱い方の説明がありました。しかし、取材者はこれらの説明をしなかったことから、PAPS世話人は「掲載前に原稿の確認をさせてほしい」と伝えたところ、取材者からは「もちろんです」と回答をいただきました。