2025年8月の活動報告
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2025年8月の活動報告

  • 執筆者の写真: Admin
    Admin
  • 9月24日
  • 読了時間: 11分

更新日:6 日前

8月の夜間アウトリーチの様子 
8月の夜間アウトリーチの様子 

この夏、ぱっぷすでは国内での相談支援活動に加えて、国際的な連携と広報活動にも力を入れました。海外の動きから学びを得て、日本で必要な制度改革を考えていきます。国際企業との協働を通じて、被害を未然に防ぎ、ひとりでも多くの人に「安心して相談できる場所がある」ことを広めていきたいと考えます。国境を越えた協力が、被害防止と被害救済を加速させると私たちは考えています。今回は、そうした国際的な取り組みの一端をご紹介します。


Meta「STOP!セクストーション」啓発キャンペーン

ぱっぷすは、Metaの「STOP!セクストーション」啓発キャンペーンに協力し、子どもや若者をセクストーションの被害から守るための情報発信を始めました。


セクストーションとは、SNSや通話アプリを通じて裸の写真や動画を送らせた後に、金銭やさらなる画像を要求する犯罪行為です。被害者は未成年を含む幅広い層に広がり、精神的にも社会的にも深刻な傷を残すケースが増えています。しかし日本では、この犯罪を知らない子どもや保護者もまだ多く、予防のための教育が急務です。


今回のキャンペーンでは、Metaが制作した動画を配信し、「裸の写真は絶対送らない」「要求に応じても被害は止まらない」「被害に遭ってもあなたは悪くない」という3つのメッセージを強調しています。また、被害画像の拡散を防ぐ無料ツール「Take It Down」の活用や、ぱっぷすへの相談先も案内しています。


chFilesのみなさん in Meta
chFilesのみなさん in Meta

Metaのオフィスで、高校生の“チャレンジ”を応援する月刊フリーマガジン「ch FILES(シーエイチ・ファイルズ)」の取材を受けました。セクストーション被害について、加害の実態や被害を受けた際の対応についてインタビューに答えました。非常に身近な問題として受け止めてくださいました。

台湾のデジタル性暴力支援の視察

ぱっぷすは、性暴力被害の研究者の方と一緒に、デジタル性暴力や性的搾取の被害にどう対応するかについて、台湾で最前線で活動する機関や行政の仕組みについて視察を通じて直接学ぶことができました。


Garden of Hope(婦女救援基金会/GOH)


台湾を代表する女性支援NGOで、性的暴力や家庭内暴力などの被害者を全国約60拠点で支えています。スタッフは500~600名規模。シェルター運営、法律・心理支援、就労や教育のサポートに加え、啓発や政策提言、調査研究まで幅広く担う“総合型”の団体です。(婦女救援基金会の「会」は実際には「會」と表記されます)


Garden of Hopeのみなさんと (Garden of hope HPより引用)
Garden of Hopeのみなさんと (Garden of hope HPより引用)

GOHは民間NGOでありながら、政府から委託を受けて支援を担い、同時に政策提言を行っています。行政が持てない柔軟さと、現場に根ざした声を制度に反映させる力を兼ね備えており、「被害者支援の最前線と政策の距離が近い」点が学びでした。


シェルター、法律相談、カウンセリング、職業訓練といった直接支援に加え、若年妊娠やLGBTQ+など多様な背景を持つ人々にも対応。単に「安全な場所を提供する」だけでなく、被害後の回復や社会的自立までを包括的に支援していることは、日本の支援のあり方を考えるうえで示唆に富んでいました。


「DV・性暴力防止基金」では、罰金を財源化して被害者支援に充てる制度設計があることも特徴的でした。国からの保証金先払い制度と合わせ、被害者が早期に経済的安心を得られる仕組みは、支援の持続性を高める上で参考になりました。


また、GOHは 「加害者の治療・教育」 にも力を入れていました。再犯率の高さを踏まえ、加害者への介入を強化することが被害防止につながるという視点は、日本でも欠かせない課題です。ぱっぷすの活動を日本で広げていくうえで、制度提言や支援体制づくりに大きなヒントとなりました。


ミーティングの様子
ミーティングの様子

iWIN(網路内容防護機構)


iWINは教育部の委託を受け、民間団体が運営するインターネット上の通報・削除支援機関です。子どもや青少年を不適切なコンテンツから守ることを目的に、600~700名規模のスタッフが活動しています。日本でいう「インターネット・ホットラインセンター」に近い存在ですが、より広範囲に有害情報へ対応している点が特徴です。


1. 明確な法的根拠と削除要請の実効性

削除要請は「児童及少年福利与权益保障法」に基づいて行われています。海外プラットフォームに対しても法を根拠に要請が可能であり、2024年の削除成功率は海外サイトで75%以上、国内サイトでは約90%と高い成果を出しています。日本でも同様に「削除を求められる根拠法」の整備が不可欠だと実感しました。


2. ガイドラインによる自主規制の促進

iWINは「ポルノ」「暴力」「ホラー」など6つの禁止表現を定義し、国内外のプラットフォームに自主規制を呼びかけています。強制力だけでなく、業界と協働して安全な利用環境をつくる発想は、日本でも参考になります。


3. 多様な関係者を巻き込む会議体

半年ごとに開催される「禁止表現コンテンツ審査会議」には、政府、業者、NPO、学識者など40名以上が参加。子どもや女性団体の代表が一堂に会し、運用改善を話し合う仕組みは、民主的で実効性のある取り組みとして印象的でした。


4. 業者教育プログラムの存在

オンラインでの研修を年9~10回開催し、事業者に法律や最新動向を伝えています。企業側が「知らなかった」では済まされないように、継続的にアップデートする体制が整っていました。


iWINの取り組みを通じて見えたのは、法律の裏付けを持つ削除要請、政府・民間・市民団体の協働、業者との教育的関わり


この3つが有害情報対策の鍵である、ということです。日本でも「削除を求める現場」と「制度を整える行政」との間をどうつなぐかが、今後の課題だと強く感じました。



SIARC(性影像処理中心)

台湾では、デジタル性暴力に特化した 公的ワンストップ窓口 が国によって設立されています。それが SIARC(Sexual Image Abuse Response Center / 性影像処理理中心)(「処」は実際には「處」と表記されます) です。2023年に衛生福利部(日本の厚生労働省に相当)の直属機関として開設されました。


SIARCは、性的な画像や動画の流出被害に対応するための唯一の公的専門窓口です。相談支援はしませんが、削除の通報受付から削除要請、証拠保存、警察との連携までを一元的に担い、被害者が複数の機関をたらい回しにされない仕組みを整えています。開設から1年余りで、年間約6,800件の相談を受け、削除成功率は9割近くに達しています。


1. 削除要請に強い法的裏付け

台湾では「性暴力防止法」「児童の性的搾取防止条例」などが改正され、プラットフォーム事業者には 削除義務と証拠保存義務 が課されました。さらに、従わない業者は台湾国内からのアクセス制限を受ける可能性もあります。特に、日本では削除要請の法的強制力が弱く、制度整備の必要性を痛感しました。


2. 被害者保護より“加害者への刑罰”を重視

特徴的だったのは、検察官が加害者に対して「保護命令」を出せる仕組みです。これは被害者を守るためではなく、加害者を罰する観点から出される命令であり、被害者に近づけない実効性を持っています。


3. 未成年への積極的対応

18歳未満のケースは非親告罪のため、本人以外からの通報でも対応可能です。ビデオ通話やセクストーションの被害は半数以上が未成年案件であり、迅速に削除・警察連携が行われていました。


4. 国際的な削除要請が可能

GoogleやMeta、LINE、Microsoftなど主要プラットフォームには削除要請のフォーマットが整備されており、SIARCが海外にも公式文書を送付できる法的根拠が明文化されています。


ぱっぷすがSIARCで学んだ大きな気づきは、「被害者をたらい回しにしない」ためのワンストップ窓口の重要性です。デジタル性暴力の被害者は、相談や削除依頼のたびに複数の機関を行き来させられることで、心身にさらなる負担を抱えることがあります。だからこそ、一つの窓口で相談から削除支援までを一貫して行える体制が必要です。


また、被害者を本当に守るためには、削除義務を法律で明確に定めること、さらに国際的な削除要請を制度として位置づけることが欠かせません。性的な画像や動画の拡散は国境を越えて広がるため、国内だけで完結する仕組みでは不十分だからです。


ぱっぷすは、相談受付から削除要請までを一手に担う「ワンストップ支援」を実践しています。相談窓口自らが削除要請を行えることは、被害者にとって大きな安心につながる強みです。この相談支援モデルは、被害者本位の先進的な取り組みとして、今後世界に広めていきたいと考えています。



台北市家庭暴力・性侵害防治センター

台湾視察の最後に伺った 「台北市家庭暴力・性侵害防治センター(Taipei City Center for Prevention of Domestic Violence and Sexual Assault)」は、台北市政府の社会局に設置された 公的ワンストップ支援機関 です。家庭内暴力や性暴力の被害者を守るために、保護・回復・加害者指導・地域予防までを総合的にカバーしています。


1. 被害者中心主義の徹底

支援は「被害者の自主性と選択を尊重する」ことを軸に設計されており、トラウマ回復や安全確保を第一にしています。成人の場合は、電話相談からでも支援が始まり、本人の意思を尊重します。未成年の場合は、対面相談が基本で、発達段階に応じて保護者との関わり方も含め支援を検討。


2. 加害者への治療・教育まで担う

加害者を「監督・教育・治療」する仕組みが法制度として整備されています。心理士・医師・ソーシャルワーカーの専門チームが加害者プログラムを運用し、再犯防止に取り組んでいる点は日本にない強みです。


3. ワンストップ病院との連携

証拠採取や心理的配慮を兼ね備えた病院が複数あり、照明や内装まで被害者のプライバシーと心理安全に配慮されています。証言の多重聴取による「二次加害」を防ぐため、ソーシャルワーカーが必ず立ち会う仕組みがありました。


4. 未成年同士の性暴力にも対応

「両方が被害者であり加害者でもある」ケースを前提に、親への教育や学校との連携を含めた支援体制が整っています。これは日本でも課題視されつつある領域です。


5. 制度として根付いた仕組み

1990年代から法制度改革を重ね、2012年ごろには台北市で制度化。2023年の改正では「性的映像の被害者」もセンターの支援対象に明記され、デジタル性暴力にも対応可能になりました。


ぱっぷすが学んだことは、被害者を中心に据えつつ、加害者を地域で管理・治療する仕組みは日本にも必要です。ワンストップ病院やソーシャルワーカー立ち会いによる 二次加害防止 は非常に有効だと考えます。未成年同士の関係性に着目した 親・学校との連携 は、日本でも検討すべき重要な支援アプローチではないでしょうか。



日本で必要な制度改革について

今回の台湾視察を通して、日本でも早急に整備すべき制度の方向性が見えてきました。被害者を守り、再発を防ぎ、社会全体で安心を築くためには、以下のような仕組みづくりが欠かせないと考えます。


1.被害者の「入口」を一本化する

台湾には SIARC という、デジタル性暴力被害のための国の公式窓口があります。日本でも同じように、通報や証拠保全、削除依頼、法的・心理的な案内までを一元的に扱う「窓口」が必要です。匿名・多言語・365日対応を前提にすることが望まれます。


2.プラットフォームの責任を明確に

SNSや動画サイトなどの事業者に対し、削除期限や証拠保全の義務を法律で定めることが不可欠です。削除要請に応じない場合は、行政処分や国内からのアクセス制限をかけられる仕組みも必要でしょう。


3.保護命令をデジタルにも適用

台湾では、検察官が加害者に「接近禁止命令」を出せる制度があります。日本でも、判決前の段階から、DMや通話などのオンライン接触を含めた接近禁止命令が出せるようにするべきです。


4.官民が連携するホットライン

台湾の iWIN のように、政府と民間が一緒に有害コンテンツの通報や削除を担う仕組みがあると、対応が早くなります。日本でも同様に、教育・通信・警察・NPOが協力する「官民連携ホットライン」を設けることが必要です。


5.加害者の治療・教育

被害者支援と同じくらい重要なのが、加害者への治療です。心理士や医師、ソーシャルワーカーが加害者の治療に関わり、再犯を防ぐ仕組みを整える必要があります。


6.教育と未成年ケースへの対応

未成年同士のトラブルにも対応できるよう、学校・家庭・専門機関が連携する仕組みが必要です。学校教育にセクストーションや同意について学ぶ機会を組み込み、保護者にも正しい情報を届けることが求められます。


7.技術基盤の整備

証拠を安全に保存する仕組みや、被害画像の再拡散を防ぐ技術を国として支援することが欠かせません。匿名で利用できる「Take It Down」や「StopNCII」といった仕組みの普及も進める必要があります。


米国の性的搾取に取り組むExodusCryとのミーティング

米国では未成年によるポルノサイト閲覧が深刻な課題となっており、州によっては「年齢確認なしにアクセス可能」という状況が問題視されています。Exodus Cry は、これを「児童の性的搾取につながる環境」と捉え、年齢確認を義務化する法制度を推進しています。具体的には、成人向けサイトにアクセスする際に 身分証明書や政府発行IDを用いた年齢確認 を義務付ける。運営者が違反した場合は罰則(アクセス遮断や罰金)を科す仕組みになっています。


Exodus Cry は「性的人身売買や搾取が存在するのは、買う需要があるから」という立場をとっています。これは「ノルディックモデル(北欧モデル)」と呼ばれる政策であり、ぱっぷすでも、日本にこの制度が必要だと考えています。実際に北欧諸国では、導入後に性売買の市場が縮小し、性的搾取の減少に繋がっていると報告されています。



ぱっぷす活動報告書2024-2025について

ぱっぷすでは、現在2024-2025年度活動報告書を作成中です。9月中には完成予定です。来月にご紹介予定です。

活動報告書作成中
活動報告書作成中



ご支援を通じて、性的搾取に巻き込まれた人々に回復をもたらします。皆さまのご⽀援が、性的搾取の問題を解決する⼤きな⼒となっています。


  • ぱっぷすの居場所、夜カフェの様子
    毎月1000円で (1日33円)年間で1日居場所がない女性に対して安心・安全な宿泊支援ができます。
    ぱっぷすの相談支援・オンラインアウトリーチの様子
    毎月3000円で年間で1日デジタル性暴力被害者の相談支援窓口が維持できます。
  • ぱっぷすの宿泊施設ひつじハウス
    毎月500円で年間1回繁華街での夜回り(アウトリーチ活動)で出会った若い女性に同行支援ができます。

 

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